高額所得者の婚姻費用の加算理由

義務者の年収が算定表の上限額である2000万円を大幅に超え倍近くである場合において、基礎収入を算定するにあたっては、税金及び社会保険料の実額、職業費、特別経費および貯蓄分を控除すべきとした例

 

本日は、

義務者の年収が算定表の上限額である2000万円を大幅に超え倍近くである場合において、基礎収入を算定するにあたっては、税金及び社会保険料の実額、職業費、特別経費および貯蓄分を控除すべきとした例

の裁判例をご紹介いたします。

 

弁護士の野条です!

 

相手方が高額所得者の場合、婚姻費用が争われることがあります。以前お伝えしましたように、婚姻費用の金額は解決金にも影響することがありますので、実は非常に重要になります。

 

可処分所得の金額や生活状況をどう考えるのか、重要になります。


[東京高裁2016(平成28)年9月14日決定 判タ1436号115頁、家庭の法と裁判16号116頁]
[事実の概要]
夫婦は1991(平成3)年に婚姻し、夫婦間には、長女及び長男がいるが、いずれも私立大学に通う学生であり成人している。夫(抗告人)は2014(平成26)年に家を出て別居し、長男と暮らし、長女は1人で暮らしている。妻は一人暮らしである。夫は子らの学費及び生活費を負担している。
夫には、給与収入2050万円のほか不動産収入及び配当収入があり、給与収入に換算すると後記の通り、約3940万円の収入がある。妻の年収は、約75万円、基礎収入は31万6727円である。妻から婚姻費用分担請求がなされた。
[決定の概要]
「・・不動産収入及び配当収入を0.8(1-職業費の割合0.2)で除して給与収入に換算すると1889万9067円となり、抗告人の給与総額は3939万9067円となる。この額は、いわゆる標準算定表の義務者の年収の上限額2000万円を大幅に超えていることに鑑み、抗告人(筆者注:夫)の基礎収入を算定するに当たっては、税金及び社会保険料の実額(1348万9317円)を控除し、さらに職業費、特別経費及び貯蓄分を控除すべきである。…職業費については、・・収入比18.92%(筆者注:判タ1111号搭載の「平成10~14年 職業費の実収入比の平均値」表の実収入1500万円以上の場合の職業費の比率)とすべきである。…特別経費については、年収1500万円以上の者の収入比とされる16.40%(筆者注:判タ1111号の「平成10~14年 特別経費実収入比の平均値」表の、実収入1500万以上の場合の特別経費の比率)とするとともに、・・・総収入から税金及び社会保険料を控除した可処分所得の7%分を相当な貯蓄分と定めることとする。
そうすると、職業費及び特別経費の合計額は1391万5750円(3939万9067円×(職業費18.92%+特別経費16.40%))、考慮すべき貯蓄分は181万3682円((3939万9067円-1348万9317円)×0.07)となり、税金及び社会保険料の実額は1348万9317円であるから、これらを抗告人の給与収入総額3939万9067円から控除すると、抗告人の基礎収入は、1018万0318円となる。
そして、標準算定方式により婚姻費用分担額を算定すると、{(31万6727円+1018万0318円)×100/(100+100+90+90)-31万6727円}÷12≒20万3804円となる。
抗告人は、平成26年度に長女の大学の授業料等として102万円、長男の大学の学費として123万4500円を負担した(合計額は225万4500円)ところ、標準算定方式が前提とする学校教育費の2人分合計約66万円は標準算定方式において考慮されているから、当該考慮済みの額を控除した残額を、抗告人と相手方が基礎収入の比により負担すべきこととなる。そうすると、相手方が負担すべき金額は、月額4000円弱となる。」として、婚姻費用は月20万円とするのが相当とした。